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と言うわけで偽シナリオ最後ですー。
いやー、翌日に帰郷が決まっていたから慌てた慌てた。
月影楼に載っていた分の誤字とか修正したので少し読みやすくなってると思う。
あと、+α。
昔の話だ。
犬になることを望まれた。
猟犬となってに死霊やゾンビ、妖獣を狩れ。
番犬となって人々を守れ。
そして、畜生となり、芦夜を繁栄させろと。
それが当然だと思っていたし、それに異を唱える気もない。分家筋とは言え芦夜である誇りはある。意地もある。
だけど。
だけど思うのだ。
自分にも少しは選ぶ権利がある、と。
……友達を。大切な人達を弄んだ。
その事実だけが、どうしても、どうしても許せなかった。
「宗主っ!」
何も考えられず。
ただ、目の前のその女が憎くて。憎くて仕方なくて。
頭の中が真っ白になって、そして、それを叫びながらバス停を振りかぶっていた。
「駄目ですっ!」
「やめろ」
「…………」
恋月の一撃が空を切ったのは、宗主がそれを避けたからではない。
恋月の身体を止めた三者三様の手段がその理由。
玉依・美琴(お日様笑顔・b11621)はその小さな身体で恋月の身体を受け止め。
叱咤混じりの黒月・冬弥(幻影剣士・b00372)と無言の斎宮・鞘護(高校生魔剣士・b10064)はその進路に身体を割り込ませることで。
彼女の一撃は宗主に届くことはなかった。
「――っ!」
その三者を振りほどこうと身じろぎをし。
……恋月に出来た行動は、そこまでだった。
「ダメですっ!…ダメなんです。例え悪い事されても、悪い事をし返しちゃダメなんです……」
その胸に顔を押しつけながら、美琴が涙声を上げる。
「……美琴ちゃん……」
振り上げた手は、下ろす場所を失い。
ただ、困惑気味に、胸にしがみつく少女を見下ろす。
「家のお母さん、お料理上手いんです! ま、枕投げも家の物壊さないなら好きなだけして良いって……。お風呂は普通のお風呂だけど……あ、近所に銭湯ありますっ! その気になれば、紅葉の見える露天風呂にもご案内出来ますっ! ……だから……だから、皆でここを出ましょう。ご飯食べて枕投げして、明日は鹿公園で鹿にお煎餅あげて、皆一緒に鎌倉に帰る……それじゃダメですか?」
矢次に紡がれる言葉は場の雰囲気に合っておらず、しゃくり上げるように響く嗚咽がその言葉全てを恋月に届かせるのを邪魔している。
だが。
「…………」
まるで、金縛りにあったかのように、恋月の身体はピクリとも動かなかった。
「俺たちの為に、怒ってくれるのはありがたいが、その為にお前の立場を悪くしてどうする? 相手の目的がわかっている以上やる事は限られてるぞ!」
冬弥の叱咤と。
「選べ恋月!!お前はどうしたい!!ここに残るのか?それとも俺たちと来るのか?!」
蒼葉・マコト(高校生魔剣士・b10052)の怒声が響き。
からりと、その部屋でバス停が落下する音だけが響いた。
「私は……私は……」
「躾の悪い狗ね。誰に似たのかしら」
逡巡は、冷たい言葉によって遮られる。
つかつかと歩み寄ってきたのは芦夜家宗主。そして、恋月の頬がパチンと乾いた音を立てた。
宗主が平手で殴打したのだ。
「テメェ!」
「……黙りなさい」
いきり立つマコトに向けられた一瞥はとても暗く、そして冷たいものだった。
その左手が恋月の首を彩るチョーカー――首輪を引き寄せ、吐息も触れんばかりの近距離に顔が近づけられる。
「おい、狗」
「……宗主……」
そこにあったのは力ない瞳だった。
「やめて……下さい」
制止しようと見上げる美琴を無視し、再度、その恋月の顔に衝撃が走る。
今度は平手ではなく、拳。
それが恋月の頬を殴り抜けていた。
「――っ! テメェ!」
「黙れと言ってる」
マコトの怒鳴り声と。
宗主の冷めた言葉と。
「……宗主。貴方……」
それらと反対に、恋月はどこか気の抜けた――ある意味、冷静とも言える目で彼女を見ていた。
殴打の音こそ大きく響いたものの、それが恋月の身体を傷つけることはない。
そう。何故ならば――。
「どう? 狗。貴方は貴方の仲間がしようとしたことを無に帰そうとした。それだけじゃない、貴方の仲間が貴方を止めなければ貴方はどうなっていたと思う?」
「私は……」
得物を振りかぶり。
そして、それを宗主に打ち下ろしていた。
ただの、人間に。
一般人と能力者の壁は遙かに厚く、そして超えることは敵わぬほど高い。
その一般人に。
宗主の渾身とも言える一撃が、恋月に何らダメージを与えていないことが彼女が単なる人間である証明だった。
「そんな……。私は……」
殺そうとか、そんなことを望んだわけではなかった。ただ、許せなかった。そしてそれを思い知らせようとして……。
でも、自分の一撃は、間違いなく……。
「……さて、恋月さん。ハッキリさせておきましょう。……貴方は何者?」
最悪の光景が頭の中で繰り返される最中、声だけが届く。まるで、自分を侵蝕するかのように。
「私は……私は……」
「貴方は?」
「黙れよっ!」
ぐっと宗主の胸ぐらを掴まんばかりの勢いで、マコトが怒鳴る。
そしてその目を恋月に向ける。怒鳴り声はそのまま、彼女への激励に変わっていた。
「選べ恋月!! お前はどうしたい?! ここに残るのか? それとも俺たちと来るのか?! ここに残りたいなら仕方が無い。だけどもし、俺達と来るなら全力でお前を守ってやる!! たとえ、世界中を敵に回してもだ!! そうだろう、みんな!!」
「当たり前だ」
答えたのは先程からのやり取りを冷静な目で見ていた冬弥である。鞘護を始めとした他の人間もそれを首肯する。
「……でも、私は……」
その台詞は最後まで紡げなかった。マコトがそれを遮ったからだ。
「芦夜だから……って言ったら怒るぞ」
いつもの彼女の口癖を真似、真摯な顔でそれを見つめる。
「でも……」
「馬鹿じゃねぇか? 俺達が何のためにここまで来たと思ってんだ? 俺達はそんなに柔じゃねぇ!!」
逡巡する彼女の台詞に、そう断言する。
それが、彼女の虚をついた。
「芦夜」
目を白黒させる恋月に掛けられたのは冷静沈着な言葉。
「お前に何か……月影楼に戻れない理由があって、それに俺達が協力できるのであれば協力しよう」
「……冬弥さん……」
そして。
「恋月。帰ろう」
蓮見・美女丸(高校生水練忍者・b05087)が、幼馴染みに微笑する。
ああ。
そうか。
そうなんだ。
「宗主」
先程までの強い憎しみでもなく。
今まで抱いていた恐怖でもなく。
ただ、晴れやかな気持ちで、恋月は自分の飼い主の顔を見た。
「……私は芦夜の狗だ。……でも、芦夜恋月なんだ」
「そう」
宗主の返答は、ただ、簡潔に。
「……だから、行くね。私の今の場所は……銀誓館学園で……月影楼だから」
正面から見つめた視線は、だが、やんわりと遮られる。
それは、笑みだった。
「……行ってらっしゃい」
その言葉は恋月の顔に――否、月影楼の面々の顔にすら、困惑の表情を浮かべさせる。
「でも、恋月さん。年末年始、あとお盆ぐらいは顔を見せなさい。貴方は自分がどれだけこの世界から必要さとされているか、自覚無いのよ。ホント、困りもの」
「……宗主?」
「仲間に感謝しなさい。貴方を助けたのも、貴方を救ったのもその仲間達よ」
それだけを言い、ひらひらと手を振る。
その緩慢な動作はどこか、野良犬を追い払う動作に似ていた。
「……いいのか?」
マコトの問いかけに、恋月は戸惑い混じりに、だが、満面の笑みを浮かべ答えた。
「……うん。いこう」
* * *
「宗主殿」
その部屋から出る直前。
襖を開けた体勢のまま、蓮見・蘭寿(中学生水練忍者・b11803)が振り返り、金色の瞳を芦夜家宗主に向ける。
「最後に一つだけ。……なぜ、挑発行為であると認めたのですか?」
その言葉に細い、形の良い眉がピクリと動く。
どこか皮肉げな――最初に抱いた"狐のような"表情を浮かべ、蘭寿の顔をじっと見つていた。それは睨んでいるのではなく、ただ、純粋に観察しているかのような視線で。
「最初に言ったことと相違はないわ。貴方達を気に入ったから。そして、貴方達が優秀だったから」
教え子を諭すような口調。
人の上に立つ者特有の、見下したわけでもなく、ただ事実を伝えるような言動に、しかし蘭寿はその言葉を無視し、自分の考えを告げた。
「もしかして宗主殿は……」
そこから先の言葉は紡がれず。
だが、その視線が全てを物語っていたのか、宗主の頬がわずかながら、朱に染まる。
「……ごきげんよう、宗主殿」
それが、答えだった。
それだけで蘭寿は満足だったのだ。
* * *
酷く長い時間、芦夜の家に滞在していた気がする。
旅行のために準備したバスに戻り時間を確かめると、この屋敷の敷地内に入ってから一日に至っていない。
当然だ。
朝、ここに到着し、深夜にほんの一、二時間、会話しただけなのだから。
なのに、もの凄い時間をここで過ごした、そんな気さえするのだ。
「あ、お帰りなさい」
バスに縛られ、転がされていた冴島・遼二(高校生ファイアフォックス・b01359)と蓮見忍軍の下忍。そして、同じく縛られ転がされているものの、眠りに落ちて反応しない黒部・貴也(銘無き闇の刃・b08272)と狩谷・真司(謎のシルクハットぱぴよん・b05491)。計4人は現在、鞘護のてきぱきとした応急処置を受けていた。
とは言え、傷は浅い為、遼二と下忍には簡潔に包帯を巻かれた程度で、他の二人も半日もあれば目を醒ますだろう、と言うのが鞘護の見解だった。
安堵の吐息が漏れらしたのは誰だったのか。
「で、恋月様、私たち夕食がまだですのよ。当然、恋月様が奢って下さりますわよねぇ?」
出発するバスの窓から遠くなっていく宗家を見つめている恋月の、その隣に腰を下ろし、蘭寿が問いかける。
「……え? ……いや、蘭寿ちゃん、だって、もうすぐ朝だよ」
よく見れば、東の空は白くなってきていた。
「え? 恋月、朝ご飯もおごってくれるの?」
蘭寿の言葉を引き継いだのは彼女の兄――美女丸だった。
いつもの悪戯っぽい目が恋月に向けられ、そして微笑んでいる。
そう、それはいつもの光景だった。
「……わ、判ったよ」
引きつった笑みを浮かべる。
「みんな、聞いた? 恋月のおごりだ!」
勝利、とばかりに高らかに起こった宣言に、バスの中が歓声に包まれる。そして、一際大きな恋月の溜息。
「……今月、この旅行でお小遣いピンチなのになぁ……」
その愚痴は、誰にも届かず。
そして。その隣で。
蘭寿は突然、頭に載せられた兄の手に首を傾げていた。
「兄様?」
「……あっ!」
疑問に答えず、美女丸は先程芦夜の人間から返された携帯電話の電源を入れる。本来、バスの中ではマナー違反だが、このバスは私バスなので無視。
「パパ上~~」
「……ああ、お兄様、そう言えば……」
絶縁していた、と言う言葉は飲み込むことにした。今の雰囲気に水を差すのも意味がない。
頻りにぺこぺこと電話に向かって頭を下げる兄に、ただ、笑っていた。
そして。
「よ」
座席から身を乗り出し、ペットボトルのお茶――バスの中にあった備品――を差し出しながら
マコトが二カッと笑う。
「……さっきはありがと、マコトくん」
どうとあれ転機は彼の強引な一言だった。
「お前が助けて欲しいって言うから行ってやったんだ……俺はどうだって良かったんだけどな……まぁその、何だ……良かったな」
お茶を受け取った恋月に対し、憮然とした表情で目をそらし、窓の外を見る。
「……んー、それでも、だよ」
ただ。
その耳が赤く染まっていたことは、言わぬが花、と言う奴なんだろうな、と思いながら笑った。
(ま、ずいぶんと勝手な言い分だったけどね)
それが彼らしいな、とちょっとだけ思った。
――一方。
一人、美琴はパーカーのフード深く被り、座席に深く腰を下ろし、自分を守るように、まるで胎児のように丸まっていた。
零れていたのは涙。
だが、それを止める事の出来る人間は、この場におらず。
ただ、「ごめんなさい」と呪文のように、それを小声で繰り返していた。
「……美琴ちゃん?」
一瞬だけ、視線が上がり、そしてそれは恋月を見ると再びフードの奥に隠れる。
寝てるといわれれば寝ている。
そう取り繕っているようにも見えて。
「……ごめん」
一度だけ、短くそう言って彼女はその場から離れる。
そう。
言い繕うことは出来ない。
自分は――芦夜の家は、この純粋な少女に影を落とした。その事実は間違いなく。
バスは森を抜け、そして山道は次第に街へと発展していく。
それを視線で追いながら思う。
……自分はやはり、狗なのだと。芦夜の家に縛られた狗なのだ、と。
だけど。
今はそれに対して少しばかりの後悔と罪悪感と。
一瞬だけ垣間見た宗主の強さを……少しだけ、誇りにしたいと思った。
「恋月」
握りしめた手を凝視していると、冬弥の声が掛けられた。
「……ん?」
「……朝ご飯は次のパーキングエリアでいいか?」
「……貴方もか」
今はただ、無傷とは言わずとも、月影楼の面々が無事だったことを祝おうと、それだけを思った。
「ぜったいあの人、人の一人や二人殺してるって!」
「……お兄様、それは……」
「ってか、人の家の宗主をなんだと思ってるのさ?!」
「……いや、俺もそー思う」
「……芦夜は……それぐらいしてるんじゃないか?」
「マコトくんまでっ! って冬弥くんも酷いよ!」
「………………」
「斎宮さんは無言で頷くのをやめて下さい!!」
それは、いつものように賑やかな日常。
彼女が銀誓館で、月影楼で手に入れた……日常だった。
~Fin~
* * *
そして。
「大変だな。芦夜であることも宗主であることも……保護者であることも」
あきれ顔の青年の呟きに、ただ、笑って。
「それでも、私は芦夜よ」
どうあれ、どんな形であれ、自分の欲求を満たす。
そこに誰かの犠牲を悼むとか、そう言う感情を入れないことを選択したのは、宗主という立場を引き継いでからだった。
……正直な話、そのために可愛い従妹を弄んだのは心苦しいけれど。
彼女が狗であることにこだわる以上に、自分は芦夜の頭であることにこだわるつもりだった。
「……で、姉さん、あのまま恋月が得物を振り下ろしていたらどうするつもりだったんだ?」
呆れ顔なのは義弟だけでなく。
実妹もまた、同じ表情で。
あー、直接の兄妹でなくても、同じ芦夜の血のつながりはあるんだなぁ、と漠然と思う。
「殺されていたでしょうね」
さらりと。
なんでもないことのように言う。
「おいおい。嫌だぜ、日和さん。俺、代行として戦争し掛けるの」
まぁ、もっともな話だ。
「でも、時雨がそれを見ていない。だったら、私が殺されるはずはない。……そうでしょ?」
「……先見は万能じゃない。姉さん、そう言う不確定な要素で自分の命を……」
「あら? 貴方達は恋月さんを、そのお友達を信じていなかった?」
なおも愚痴ろうとする妹を制し、そして。
「さてと、今回はここまで。だけど芦夜として私たちにまだしないといけないことがある。そうでしょ?」
「……ああ」
「……ホント、姉さんは無茶が多すぎるよ」
憮然と頷く二人に再び向けたのは笑顔。
それはまるで花のような優しく綺麗な、それでいて、散りゆくことに後悔を持たない、凛とした微笑みとだった。
「……俺達は一生、飼い主に頭を上げることが出来ないんだな」
諦めにも似た言葉にただ、笑みがこぼれた。
「ま、俺も約束をしてしまったしな」
「私が姉さんの暴走を止めないと、恋月が可哀想だ」
「……あら。私だって家のことがあるから大変なのよ」
結局。
そうおもう。
結局、誰しも何かに―それが家であれ、信念であれ、感情であれ―縛られた存在なのだ、と。
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