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偽シナ第二話目のAパートです。
さてさて。
私奪還の為に頑張る皆はどうなるのか!
果たして私は無事に帰れるのか!
こうご期待!
時刻にして既に丑三つ時を経過した頃。芦夜宗家は未だ、静寂に包まれていた。
ふと芦夜・恋月(高校生ファイアフォックス・b10866)が顔を上げると、周囲に見張りの気配が無かった。
宗主とその妹に月影楼の面々を歓迎すると言われて一時が経過したにも関わらず、争いの音は未だ聞こえていない。
もしかしたら、ここが別館だから、本館での喧噪が聞こえないだけかも知れないけど。
……でも、見張りの気配がないと言うことは。
(……よし)
立ち上がり、中庭に接している唯一の窓の、そこにはめられている鉄格子を触ってみる。
……触った感触では特に変な感じは受けない。普通の鉄製品と思われた。
(これなら)
鉄格子を破壊し、中庭に逃げる。そうすれば最悪、月影楼の誰かとは合流することが可能だ。
宗主からの没収を免れたイグニッションカードを懐から取り出し、それを掲げ――。
「……恋月」
力を解放する直前、突如投げかけられた言葉にびくりと震えた。
ゆっくりと巡らせたその先にいたのは。
「……時雨姉ちゃん」
震える声が発せられる。
芦夜が抱える運命予報士にして、宗主の実妹。恋月にとっては従姉に当たる女性が唯一の出入り口である扉に背を預け、こちらを見ていた。
……開ける音も気配も無く。
それはそれで、とても恐怖を感じた。
「時雨姉ちゃん」
それでも、今、逃げだそうとした決意に代わりはない。
破壊するのが建物なのか、それとも従姉なのか。……その違いだけだ。
イグニッションカードを手で掴んだまま、姉と慕った従姉に――。
「恋月。お前は本当に良い友達を持ったな」
その言葉で毒気が抜かれた。
いや、それに伴って向けられた、何処か寂しげな微笑みのせいかもしれない。
「一緒に来い」
すっと恋月に背を向け、振り返らずに歩み始める。
「……どうし……て?」
きょとんと。
彼女が何を考えているか判らず、思わずこぼれた言葉に。
「お前が芦夜なら、自分の運命は自分で決めろ」
ただ、それだけが還ってきた。
* * *
芦夜の血を濃くすること。それが芦夜の望みだ。
芦夜宗主、芦夜日和はそう言いきった。そこに一点の曇りもなく、彼女が嘘偽りでその台詞を口にしたのではないことは充分に皆に知らしめていた。
余所者に意味はない。
芦夜の血を継ぎ、交配によりそれをより純血に近づける。
それが、芦夜を支えている狂気だと、彼女は断言したのだ。
一瞬だけ、ホンの一瞬だけ静寂が場を包み。
「で、ですが、芦夜宗主殿」
最初に恐慌状態から立ち直り、口火を切ったのは蓮見・蘭寿(中学生水練忍者・b11803)だった。
いや、まだ完全に立ち直りきっていないのか、その目は言葉を探してか虚空を彷徨い、口調にいつもの冷静さを感じさせない。
「蘭寿」
ただ一言、短く彼女の名前を呼ぶことで、それ以上を遮ったのは彼女の兄、蓮見・美女丸(高校生水練忍者・b05087)である。
キッと睨む視線の先では、芦夜家宗主が微笑を浮かべている。それは、どこか愉悦を孕んだ顔であった。
「宗主殿、お聞きしたい」
彼がその続きを口にするより早く。
ドゴッ。
鈍い音が、その部屋を振るわせた。
「あんたら、楽だろ?そんな生き方してると」
拳を畳にぶつけた蒼葉・マコト(高校生魔剣士・b10052)は無表情な顔で宗主を見つめていた。
そして、その瞳を彼女に向けたまま、言葉を続ける。
「芦夜だから、芦夜の為に、芦夜はそう作られた……貴様の考えは少しも入ってないな、まるで人形だ!!しかも、同じ事を繰り返す単なるからくり人形。呆れてモノも言えない」
頭を振る。
次に芦夜宗主に向けられた目は、怒りに燃えていた。
「だがな、あいつはお前とは違う!!全然違うんだ!! あいつは言った!!助けて欲しいと!!これがどう言う事かわかるか!! あいつには自分の意思がある!!お前達とは違ってな! それが、元々なのか、学園に来たせいかは知らない。だが、お前たちには無い、この制度対する反抗心があいつには恋月にはあるんだ!!」
「……そう」
マコトの怒号に、宗主の目が細められる。
愉悦の表情は、相変わらずのまま。
「……マコト、お前の言いたいことは判った。……その前にこちらの話を続けていいか?」
それを遮ったのは、美女丸だった。
まだ言葉を続けようとするマコトを制し、再び宗主を睨み付ける。
「どうぞ」
促したのは、宗主の方だった。
「……宗主殿、さきほど、貴方は"芦夜のために生き芦夜のために死ぬ。そう言う風に芦夜によって作られた存在"とおっしゃっていたが、それならば、何故学園に恋月を入学させたのですか? 彼女を道具として使うのなら、外部に出す必要はなかったでしょう。……それこそ、永遠に幽閉しておけば良かったんだ。それなのに何故?」
「……あら? 外で勉強させることに何かおかしな点があるかしら?」
ころころと、鈴を転がすような声で。
柳に風とばかりにその視線を全て、受け流している。
「井の中の蛙大海を知らずって言葉もある通り、彼女には勉強する必要があったわ。ただの道具ではなく、優秀な道具に――猟犬になるために」
「貴方にとって、芦夜にとって恋月は犬かもしれない。けど、彼女は犬じゃない。恋月は……表情が豊かになりました。人の痛みや喜びを己のものとして感じられるように」
一言区切り、断言した。
「あなたと同じ芦夜でも、恋月は、もう、昔のままの芦夜には戻れないでしょう」
「そう。つまり、貴方も同意見なわけだ。蓮見の嫡子。……恋月さんは芦夜ではない、と」
あらあら、とわざわざ口に出してまで困惑の表情を作る。
ただ、それでもまだ、その目の奥にある愉悦の色は消えていなかった。
「……彼女は否定するでしょう。……だけど、貴方達のような"芦夜"ではない」
「私はっ!」
ゆっくりと頭を振る美女丸の隣で、玉依・美琴(お日様笑顔・b11621)が声を張り上げた。
「私は今の今まで貴方が元凶だと思ってました。でも、違ったんですね。貴方は芦夜の理想に操られた、とても哀しくて弱い人…」
彼女に浮かんでいた表情はこの場にいた誰とも異なり、悲哀だった。
その寂しげな色を称えた瞳が、芦夜宗主に向けられている。
「貴方達の掲げる理想を細かく知ってる訳じゃありません。でも、貴方達が再来を望む誰かが、たった一人で世界を平和に出来る程の凄い人だったとしても、私は貴方達は間違っていると思います。多くの人を道具の様に扱い贄に上げなければ、成就出来ない理想なんておかしいです」
そう。
意志の籠もった瞳は揺らぎなく。
「家の為に人が在るのではなく、人の為に家があるんです。家名ではなく、そこに大切な人が居るからこそ、家を大切に思うんです! 結婚は世界で一番大好きな人とする物なんです!!」
「……驚いた。今度は同情?」
それでも、彼女は笑顔で。
「貴方は……あなた達は能力者ですものね。能力者を追い求め能力者を自分の家から選出する、ただそれだけを求める家が滑稽でしょう。滑稽で仕方ないのね」
「そんな――!」
「高みの上から貴方達が可哀想。貴方達が許せない。貴方達がおかしい。……やはり、能力者の意見ですね」
大仰な溜息は、やけに芝居がかって聞こえた。
「で? 答えは最初っから述べたはずですよ。芦夜恋月は渡せない、と。貴方達の望む芦夜恋月なんてここにはいない。……芦夜恋月なんて人物は貴方達に関わり合いが無かった。そう諦めて帰ればいいじゃない?」
ねぇ。
まるで堕落を誘う蛇の如く、その甘言が月影楼の面々にまとわりついてくる。
「――言ったはずだ、俺達は恋月を……助けを求められて仲間を助けに来たってな!」
その言葉を真っ向から打ち破ったのはマコトの咆吼だった。
「恋月、聞えるか!! お前がどこにいようが、こいつらが何をしようが、構わない!!お前は俺達が必ず助ける!!この蒼葉マコトの名にかけて、必ず助けてみせる!!」
先程から今にも飛びかからんばかりの彼を制している斎宮・鞘護(高校生魔剣士・b10064)の手の中で、吼えたのだ!
「これが俺の決意だ!」
奪還を宣言するかのように、真正面から宗主を見据え。
「つまり、こういう事かしら? 交渉は決裂、と」
揶揄する彼女の言葉だけが、その部屋に響いた。
* * *
堪えても、堪えきれなかった。
従姉に促されて連れて行かれた先、朝、皆が宗主と歓談をしたその場所に続く廊下で。
幼馴染みの言葉を聞いた。
可愛い後輩の涙ながらの説得を聞いた。
そして、友人の決意を聞いた。
堪えても堪えきれなかった。
抑えようとして、それでも抑えきれない感情が、両目を通じて零れ出す。
嬉しかった。
ただ、単純に嬉しかったのだ。
彼らが、……月影楼の皆が自分を仲間と受け入れてくれていて。
そして、こんな不甲斐ない自分の為に力のあらん限りを振り絞ってくれていることが。
「恋月」
涙を抑えきれない恋月に、無機質な声が掛けられる。
「……あとは、お前が選べ」
「時雨姉ちゃん」
何度目になるか判らない彼女の名前を呼ぶだけをただ、繰り返す。
「……どうして?」
その問いかけも何度目だったか。
見上げる彼女に無表情なまま――それでも優しげな表情に思えたのは気のせいか――時雨は頷く。
「先も言った。私は芦夜だ。これが芦夜の利益になると信じているから、お前を解き放つ。それだけだ」
「……宗主に逆らっても?」
「だから、お前が決めろ」
ただきっぱりと、断言した。
* * *
「交渉は、決裂か」
微苦笑。
なら、仕方ないわね。
彼女はそう呟く。
「血を濃くすると言う目的は結構だが、それが必ずしもいい結果有無とは限らん。それを今から俺たちが証明してみせる。ご覧あれ!」
宗主がすっと半身を引き、何かを命じるように右腕を持ち上げるのと、黒月・冬弥(幻影剣士・b00372)がそう宣言するのは同時だった。
そして、月影楼のそれぞれが懐からイグニッションカードを取り出し、頭上に掲げようとしたその瞬間。
「お待ち下さい、皆様!」
ただ一人、イグニッションカードを取り出していない少女の制止の声が、場を震わせる。
彼女――蘭寿の視線は皆と同様、芦夜家宗主に向けられていた。しかし、その目が視ているものは……他の人間とは違っていた。
「今までつきまとっていた違和感の正体がようやく、判りましたわ」
「蘭寿?」
兄の言葉に微笑する。
一度は冷静さを欠いて取り乱したものの、今はもう大丈夫。
それを伝えるのに充分な微笑みだった。
「宗主殿、一つ聞きたいことがあります。貴方は本当に芦夜様を結婚させる気があったのですか? ……いえ、違いますわね。明日、芦夜様に婚礼の儀を結ばせる気はあったのか、ですか」
その言葉に何故か、宗主の顔から表情が消えた。
先程まで浮かんでいた愉悦の色が失われていたのだ。
「今回の旅行、芦夜様が言い出したものです。そして、芦夜宗家への訪問は私の兄の気まぐれで決定した物。……それにしては用意周到過ぎます。結婚が出来る材料がその短時間でそろえることが出来るはずがありません」
「恋月さんは"運命予報士"と言っていたわ。その存在を芦夜が抱えていないとでも?」
先程と同じく平静な口調。
だが、そこに先程と同じような余裕が無いことはハッキリと判った。
「そもそも、そうならば何故私たちにそれを宣言したのか」
宗主の言葉を一応は受け止め、独白の様に言葉を紡ぐ。
「芦夜様を本当に強引に結婚させるのならば、このようなタイミングを選ばずとも、ただ宗家に呼び出せばいい。そう、このようなタイミングを狙って婚礼を推し進めると言うことは、それだけせっぱ詰まった理由があるのか、もしくは……」
一拍置く。
ある意味、意地悪いとも取れる微笑み。
対して、先程まで饒舌に反論していた宗主からは答えがない。
ただ、その先を待つかのように沈黙を守っている。
「よくよく考えれば各所に綻びのあるやり方でした。矛盾点が多すぎる。だが、貴方はそれを上手に隠した。……そう、芦夜様の言葉を借りれば、貴方は確かに“芦夜”でした。芦夜である。狂気にまみれた人間を自称することで、それら全てを無理矢理つなげた。……より正確には『凝り固まった考えにより、聞く耳を持たない人間』を演じることで、私たちにそれについて考えさせないようにした。それが、私の抱いていた違和感の正体だったのですね」
「何が言いたいんだ?」
じれったそうにマコトが蘭寿に問いかける。
乱暴な口調はおそらく、怒りの行き所を無くしてしまったから。
「つまり、宗主殿の目的は芦夜様を結婚させることなどではなく」
推理小説の終盤で、犯人を特定する名探偵の如く。
人差し指を立て、蘭寿がその言葉を口にした。
「挑発、ですわ」
蘭寿の言葉に、その場にいた人間の目が点になる。
「そう、宗主殿。貴方の目的は"銀誓館学園の生徒に襲撃された"事実が欲しかった。そのために芦夜様を利用し、我々を挑発した。そう言うことではありません?」
「……何のために?」
その問いかけは誰だったか。
「大人の世界の話は良く分かりません。ですが、今、もしも世界が微妙な均衡で成り立っているのなら、……私たちの行動一つがその崩壊の引き金と成りかねません」
そして金色の瞳を芦夜宗主に戻す。
「いかがです?」
沈黙が流れた。
永遠とも、一瞬とも取れる時間が流れる。
そして、その時間を打ち破ったのは。
哄笑だった。
半身を引いたままの体勢だった芦夜家宗主――芦夜日和が声を上げ、笑っていた。
ひとしきり笑った後、涙のにじむ目で蘭寿に視線を向ける。
それは真っ直ぐとした視線で。
「正解よ」
ごく自然に、認めた。
「本来ならば恋月さん単独でも良かったんだけどね。……それでは内輪もめと処理されてしまう。赤の他人である貴方達が私たちに危害を加えること。それが目的。更に言うなら、銀誓館学園が誇るイグニッションと言う行為も見てみたかった、と言うこともあるかな。……秘匿とされたその技術を私たちが知る機会は早々無いからね」
あっさりと。
悪びれも感じさせなく。
「て、てめぇ!」
「お待ち下さい!」
再度拳を固めるマコトを押さえたは蘭寿の声と鞘護の手。
「先に言った通りですわ、蒼葉様。ここで激昂すれば芦夜家の思う壺」
「……ふぅ」
妹の言葉を引き継ぐかのように、美女丸が溜息を吐いた。
「話は分かった。つまり、我々が矛を収めれば、貴方は打つ手がない。……そう言うことだな?」
「残念ながら。もう安っぽい挑発には乗ってこないでしょう」
鋭い視線に、苦笑じみた答えが返ってくる。
健闘した生徒に、紙一重の差で敗北してしまった教師のように思える言葉だった。
「改めて言います。恋月を返して頂きたい」
そして。
それが起きたのは、美女丸がその言葉を発した、その瞬間だった。
* * *
その場所へ続く扉を開けようとしたその時、声が聞こえた。
仲間と宗主の押し問答。それを聞く内、自分が利用されている事が判った。
いや、もともと自分は宗主によって利用される立場だ。それはどうでも良かった。
その「宗主の気まぐれ」とも取れる行動によって、友人が利用された。仲間が弄ばれた。
それが、どうしても許せなかった。
「……宗主っ!」
ドアを開けると同時に、握りしめたままのカードを持ち上げ、イグニッションを宣言する。
瞬きの後、その手に握られていたのは一本の得物。
それは街中で日常的に見受けられるある器物を模した、凶悪な外観の鉄塊だった。
バス停。そう銘打たれた詠唱兵器を振りかぶり、恋月は宗主――芦夜日和に向かい走り出す。
そう、彼女は怒っていたのだ。
あとは、みんなに「彼女を止めるか」「それとも……」と言う判断を委ね、エンディングに。
蘭寿ちゃんの一回目のプレイングが見事だったので、彼女に探偵役をさせてみた。
全然陰謀劇でも無い、と言うことならば……うん。腕を上げるように頑張るよ。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
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